日本のウイスキー愛好家ならずとも、その名を知らない人はいないであろう「サントリーシングルモルトウイスキー 白州」。南アルプス・甲斐駒ヶ岳の麓、標高約700メートルに位置するこの蒸留所は、世界でも稀な「森の蒸溜所」として知られています。1973年の操業開始から半世紀を経て、2024年には大規模なリニューアルを完了し、さらなる進化を遂げました。本記事では、白州蒸溜所の歴史、ウイスキー造りへのこだわり、そして近年のリニューアル内容と市場動向について、詳細に解説していきます。
1. 「理想の水」を求めて:白州蒸溜所の誕生
サントリーのウイスキー造りの歴史は、1923年の山崎蒸溜所の建設から始まります。それから50年後の1973年、二代目社長でありマスターブレンダーでもあった佐治敬三は、山崎とは異なる個性の原酒を求めて、第二の蒸留所建設を決意しました。 蒸留所建設において最も重視されたのは「水」です。初代チーフブレンダーの大西為雄は、佐治の命を受け、源流奥深くまで全国を調査しました。そして辿り着いたのが、山梨県北杜市白州町でした。 白州の水は、南アルプスの花崗岩層で20年以上の歳月をかけて濾過された天然水です。硬度は約30度の軟水で、山崎蒸溜所の仕込み水(硬度約90度)と比較しても、非常に軽やかでクリアな水質を誇ります。この水こそが、白州特有の穏やかでクリーンな原酒を生み出す源泉となっています。
2. 多彩な原酒を生み出す「つくり」のこだわり
白州蒸溜所の大きな特徴は、世界でも類を見ないほど多彩な原酒のつくり分けを行っている点にあります。
木桶発酵槽 発酵工程では、温度管理が難しい木桶(ベイマツ)の発酵槽を使用しています。現在18基が稼働しており、木桶の保温性や、蒸留所内に棲みつく乳酸菌の働きによって、白州ならではの複雑で豊かな香味成分が生成されます。
直火蒸留とポットスチルの形状 蒸留工程では、2014年に増設された4基を含め、合計16基の蒸留釜が稼働しています。釜の形状は、重厚な原酒を生む「ストレート型」と、軽快な原酒を生む「ランタン型」を使い分けています。また、初留(一度目の蒸留)では、1000℃以上の高温で加熱する「直火蒸留」を採用しており、これにより香ばしく力強い原酒が生まれます。
熟成 そして、「森の蒸溜所」と呼ばれる通り、広大な森の中にある貯蔵庫で熟成が行われます。四季折々の気候の変化と澄んだ空気が、樽の中の原酒をゆっくりと育て上げます。
3. 2024年のリニューアルと新たな挑戦
操業50周年を迎えた白州蒸溜所は、さらなる品質向上と魅力発信を目指し、2024年9月にリニューアルを完了しました。
フロアモルティングの導入 特筆すべきは、「フロアモルティング」の導入です。これは大麦を床に広げて発芽させる伝統的な製法で、機械化が進んだ現代では非常に手間のかかる工程ですが、原酒の品質をより高めるために採用されました。また、酵母培養プロセスの導入も実施され、より高品質な原酒のつくり込みを目指しています。
見学ツアーと施設の新設 見学施設も一新されました。新たにオープンしたレストラン「Hakushu Terrace(ハクシュウ テラス)」では、地元食材を使った料理やオリジナルカクテルを楽しめます。また、新設されたツアー「白州蒸溜所ものづくりツアー プレステージ」では、フロアモルティングの見学や、特別なテイスティングルームでの試飲が可能となり、つくり手のこだわりを五感で体感できるようになりました。
4. 環境との共生:サステナビリティへの取り組み
「水と生きる」を掲げるサントリーにとって、水源を守る活動は事業の生命線です。白州蒸溜所周辺では、「サントリー 天然水の森」活動を通じて、水源涵養林の保全を行っています。 また、1973年から続く愛鳥活動の拠点として、蒸留所内には「バードサンクチュアリ」が設けられており、今回のリニューアルではビジターセンターからサンクチュアリへ繋がる「バードブリッジ」も設置されました。これは、ウイスキー造りが豊かな自然環境と生物多様性に支えられていることを象徴しています。
5. ラインナップと市場の現状
白州のラインナップには、スタンダードな「ノンエイジ」、長期熟成の「12年」「18年」「25年」などがあります。特に「白州25年」は、2022年のインターナショナル・スピリッツ・チャレンジ(ISC)で最高賞の「トロフィー」を受賞するなど、世界的にも極めて高い評価を受けています。 しかし、近年の世界的なジャパニーズウイスキーブームや、ハイボール人気により、原酒不足が深刻化しています。1980年代から2000年代にかけてのウイスキー需要低迷期に生産量を絞っていた影響もあり、熟成に時間を要するウイスキーは急な増産が難しいためです。 最近では、蒸溜所限定ボトルのリニューアルも話題となりました。YouTubeチャンネルのレビューによれば、新しい限定ボトルはアメリカンオーク樽主体のクリーミーな香りと、ほのかなスモーキーさが特徴で、年数表記にとらわれない新しい白州の方向性を示しているとのことです。
結論
白州蒸溜所は、単なる生産拠点ではなく、豊かな自然と人間の技が融合する場所です。花崗岩層で磨かれた水、木桶発酵、直火蒸留といったこだわりの製法、そして新たに導入されたフロアモルティングなどの挑戦は、すべて「白州」という唯一無二の個性を磨き上げるためのものです。 品薄状態は続いていますが、サントリーは品質を犠牲にすることなく、未来を見据えた投資と環境保全を続けています。一杯の白州グラスを傾けるとき、その背景にある森の息吹と、つくり手たちの情熱に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

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