はじめに:1本100円の「宝物」だった時代
1960年代、日本の鉛筆作りは最盛期を迎えました。当時、小学校に持っていける最高の贅沢といえば、1本100円もした最高級鉛筆でした。現在の物価に換算するとなんと1本830円にも相当するこの高級品を、もったいなくて使わずに筆箱に忍ばせていた方も多いのではないでしょうか。
その双璧として君臨したのが、1966年に登場した三菱鉛筆の「ハイユニ」と、1967年にトンボ鉛筆創立55周年を記念して発売された「MONO 100」です。発売から半世紀以上が経過した現在も、これらは1本約150円(税抜)で販売され、プロから愛好家までを魅了し続けています。
トンボ MONO 100:極限まで高められた粒子の密度
「MONO」ブランドは、1963年に登場した最高級鉛筆から始まりました。その名はギリシャ語で「唯一の、比類なき」を意味する「monos」に由来します。
「MONO 100」という名前の背景には、驚くべき技術が隠されています。それは、芯の粒子が1立方ミリメートルあたり「100億個」も凝縮されているという点です(標準的なMONOは80億個)。この超微粒子による高密度構造が、なめらかで折れにくく、かつ濃く鮮明な筆跡を可能にしました。
デザイン面でも、漆黒の軸に金の箔押しとリングキャップが施され、最高級の名に恥じない美しさを備えています。また、軸材には高級なインセンスシダーが使用されており、削り心地にもこだわりが見られます。
三菱 ハイユニ:世界一のなめらかさを追求した傑作
一方、三菱鉛筆が1958年に発売した「ユニ」は、当時の大卒初任給が約13,500円だった時代に、1本50円という高価格でヒットしました。その「ユニを超えるユニ」として開発されたのが「ハイユニ」です。
ハイユニ最大の特徴は、不純物が少ない黒鉛と粘土を均一に混ぜる技術により実現された、力強い黒さとムラのない滑らかな書き味です。その品質は、国内最大級の美術用品店から「日本が誇る鉛筆の最高傑作」と評されるほどで、デッサン用として多くのアーティストに支持されています。
硬度ラインナップも圧倒的で、世界最多水準の10Hから10Bまで計22種類を取り揃えており、繊細な描写から大胆な表現まで対応可能です。
実践比較:書き味の「個性」はどう違うのか?
実際にこの2本を使い比べると、明確な個性の違いが浮かび上がります。
• トンボ MONO 100: 軽快な書き味で、紙の上をよく滑ります。直線を引いた時の伸びが良く、筆圧をかけても割れにくいため、精密な絵や製図に向いています。
• 三菱 ハイユニ: 芯にやや湿度を感じさせるような、しっとりとした滑らかさがあります。黒色の力強さが特徴で、デッサンやグラデーションの表現に最適です。
ユーザーの中には、高級な「100」よりも標準的な「MONO」の方が書き味がスムーズだと感じる人もおり、好みや用途によって選択肢が分かれるのも面白い点です。
コラム:消えゆく「HB」と、学校の主流となった「2B」
かつて鉛筆の「基準」といえばHBでしたが、近年の学校現場では大きな変化が起きています。現在、小学校で推奨されるのは2BやBが主流です。
背景には、子供たちの筆圧低下があると言われています。また、銀行やオフィスでの事務用途が減り、鉛筆の主な市場が教育現場に移ったことで、より濃く書ける2Bのシェアが急拡大しました。三菱鉛筆のデータでは、かつて5割を占めたHBは現在2割程度まで減少し、逆に2Bが4割を占めるトップに躍り出ています。
結びに:今こそ手に取りたい最高級の1本
ペーパーレス化が進む現代ですが、上質な鉛筆で書いた文字には、ペンにはない書き手の「あじ」が滲み出ます。
日常のメモ、手帳への書き込み、あるいは家族への伝言。そんな何気ない瞬間に、かつての「宝物」であった最高級鉛筆を使ってみてはいかがでしょうか。100億個の粒子が紙の上を滑る感触は、デジタルでは味わえない贅沢な時間を与えてくれるはずです。
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※補足:本文中の価格や硬度などの情報はソースに基づいたものですが、最新の状況とは異なる場合がありますので、必要に応じてご確認ください。

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