はじめに:ポケットに収まるPCの衝撃
2009年、ソニーが発表したVAIO type P(VGN-Pシリーズ)は、PC業界に大きな衝撃を与えました。ジーンズのポケットに本体を差し込む広告ビジュアルは今も語り草であり、「ポケットスタイルPC」という新しいカテゴリーを定義しました。わずか約600gの軽量ボディに、一般的なネットブックを遥かに凌ぐ1600×768ドットの8インチ超ワイド液晶を搭載したその姿は、まさにモバイラーの理想を形にしたものでした。
その後、2010年にはデザインをポップに刷新した第2世代のVAIO P(VPCPシリーズ)が登場しました。角が取れた「くるっとくるむ」ようなデザインとなり、ディスプレイ横にタッチパッドとボタンを配置して両手で持って操作できる**「モバイルグリップスタイル」**が復活したのもこの時です。しかし、2011年を最後にこのシリーズは途絶え、現代のUMPC市場でもこれほど極端に横長で実用的なキーボードを備えたモデルは生まれていません。
ハードウェアの課題とメンテナンス
発売から15年以上が経過したVAIO Pを現代で使うには、いくつかの高いハードルがあります。
1. ストレージのSSD化 初期モデルの多くは1.8インチの低速なHDDを搭載しており、現代の基準では動作が非常に重く感じられます。これをSSDに換装することが快適さへの第一歩ですが、インターフェースが特殊なIDE ZIFであるため、市販のmSATA SSDを変換基板経由で取り付けるといった「工夫」が必要です。ただし、変換アダプタを使用する場合、Windows 7以降のインストール中にTrimコマンドの関係でハングアップする現象が報告されており、コマンドプロンプト等での回避策が必須となります。
2. バッテリーの「おもらし」と給電 VAIO Pには、電源を切っていてもバッテリーが異常消費される、通称「おもらし」と呼ばれる持病があります。これを改善するにはBIOSの設定をHackし、ワンセグ等の待機設定を無効にするなどの高度な対策が必要です。また、古い純正バッテリーの劣化に対しては、現代のUSB-PD対応モバイルバッテリーから変換プラグ(10.5V〜12V出力)を用いて給電する方法が、実用性を高める上で極めて有効です。
2025年のOS選び:32bitの壁をどう超えるか
VAIO Pに搭載されているIntel Atom Z5x0シリーズは32bit CPUであり、64bit専用のWindows 11をインストールすることはできません。
• Windows 7: 最もバランスが良く、ドライバの互換性も高い選択肢です。
• Windows 10: 32bit版であれば動作しますが、Atomの処理能力では非常に重く、ディスプレイ輝度調整が効かないなどの不具合も発生しやすくなります。
• Linux (MX Linux): 2025年以降も安全に使い続けるための「本命」です。MX Linux 23.6 Xfce 32bit版などは、ベースとなるDebian 12のサポートにより2028年まで利用可能です。実際に導入すると、Windows 10では不可能だった輝度調整が可能になり、Webブラウジングも(時間はかかるものの)実用範囲に収まります。
• Chromium OS: 軽量な動作を求めて過去の32bit版ビルドを導入する試みもありますが、GPUの互換性により表示がカクつくといった課題も残ります。
現代での活用シーン
スペックの低いVAIO Pですが、その機動性を活かせる用途はまだあります。
もっとも現実的な使い方は、リモートデスクトップ(RDP)のクライアント端末としての利用です。Windows 7をインストールしたVAIO Pから最新のWindows 11 Pro機へ接続すれば、VAIO Pの優れたキーボードと高解像度液晶を活かしつつ、中身は最新PCのパワーで作業を進めることができます。動画再生以外のテキスト入力やWeb調査であれば、驚くほど快適にこなせます。
また、VAIOの25周年サイトでも触れられている通り、本機は**「タイピングしやすさ」**に徹底的にこだわって開発されました。そのため、ネット接続をあえて制限した「集中型テキスト入力マシン」としても、依然として高い価値を持っています。
結び:所有する喜びがあるPC
VAIO Pは、単なる「古い小型PC」ではありません。エンジニアたちの「常識にないものを作ろう」という情熱が結晶化した、所有する喜びを得られるデバイスです。現代のハイスペックなスマートフォンやタブレットにはない、「Windowsが動く最小の相棒」としての魅力を引き出すために、あえて手をかけてメンテナンスし、2025年の今こそ外へ連れ出してみてはいかがでしょうか。
VAIO Pのような尖った製品が再び現れることを願いつつ、私たちはこの小さな名機をもう少しだけ、現役として使い続けることができそうです。

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