1980年代初頭、日本のパソコン市場はまさに戦国時代にありました。日立の「ベーシックマスター」、シャープの「MZ-80K」、NECの「PC-8001」が旧御三家と呼ばれた時代を経て、1982年11月に登場したのが**SHARP X1(初代CZ-800C)**です。NECのPC-8801、富士通のFM-7とともに「新御三家」として、当時のホビーパソコン市場を牽引しました。
テレビ事業部が放った「パソコンテレビ」の衝撃
X1の最大の特徴は、それがシャープの「部品事業部」ではなく、栃木県矢板市にあった**「テレビ事業部」**から発売されたことにあります。既存のMZシリーズが硬派な実用・技術志向だったのに対し、X1は「パソコンテレビ」というキャッチコピーを掲げ、AV機器としての側面を強く打ち出しました。
その象徴的な機能が**「スーパーインポーズ」**です。専用のディスプレイテレビを使用することで、テレビ画面とパソコン画面を重ね合わせることが可能でした。また、パソコン本体の電源を切っていても、キーボードからテレビのチャンネルや音量を操作できる「テレビコントロール」機能も備えており、まるで有線リモコンのような使い心地を実現していました。当時の少年たちは、画面の片隅でテレビを見ながらプログラミングやゲームに勤しむという、今で言う「マルチウィンドウ」のような体験を楽しんでいたのです。
柔軟性を生んだ「クリーン設計」と強力な「PCG」
技術的な側面では、MZシリーズから継承された**「クリーン設計」**が特徴です。これはシステムプログラム(BASIC等)を本体のROMに持たず、起動のたびにカセットテープやフロッピーディスクからRAMに読み込む方式です。これにより、ソフトウェアによる柔軟なバージョンアップや、メモリ空間の広範な利用が可能となりました。
また、ホビー用途、特にゲームにおいて他機種に差をつけたのが**「PCG(プログラマブル・キャラクタ・ジェネレータ)」機能**です。文字フォントをユーザーが定義し直せるこの機能により、スプライト機能を持たない8ビット機でありながら、滑らかで高速なキャラクター描画が可能となりました。加えて、8オクターブ三重和音のPSGサウンドを標準搭載しており、贅沢なゲーム体験を提供していました。
市場を震撼させた「キラータイトル」たち
X1を語る上で欠かせないのが、ハードの普及を爆発的に加速させた名作ゲームの存在です。特に1984年に発売された**X1版『ゼビウス』**は、当時「家庭用への完全移植は不可能」と言われていたアーケードの名作を、PCGを駆使して驚異的なクオリティで再現し、多くのユーザーがこれを目当てに本体を購入しました。
また、日本ファルコムの**『ザナドゥ』も怪物的なヒットを記録しました。膨大なデータを必要とした本作は、X1の高速なカセットデータレコーダ(2700ボー)を活かし、他機種では困難だったテープ版での提供を実現していました。他にも、他機種が画面切り替え式だった中で唯一スムーズスクロールを実現した『ハイドライド』**など、X1のハード性能を引き出した傑作が数多く誕生しました。
ターボ、そして伝説の「X1 twin」へ
時代の進化とともに、X1もパワーアップを続けました。1984年には400ライン表示や漢字表示に対応した**「X1turboシリーズ」が登場し、日本語処理能力を大幅に強化しました。さらに1986年には、4096色同時表示やFM音源を搭載した最上位機種「X1turboZ」**が発表されます。
そしてシリーズ最後を飾ったのが、1987年発売の**「X1 twin」**です。これはX1とPCエンジン(HE-SYSTEM)を一つの筐体に収めたハイブリッド機で、「X1誕生5年目の解答」というキャッチコピーとともに登場しました。その後、シャープのホビーマシンの系譜は、次世代の怪物機「X68000」へと受け継がれていくことになります。
結びに代えて
シャープX1は、単なる計算機としてのパソコンではなく、生活の中心にある「テレビ」と「趣味」を融合させようとした挑戦的なマシンでした。その独創的なアイデアと、それを支えた確かな技術力は、今なお多くのレトロPCファンの心に刻まれています。
「例えるなら、X1は『多機能なマルチツールが組み込まれた魔法のテレビ』のような存在でした。」 ただ映像を映すだけでなく、自ら作り、遊び、そして拡張していく喜びを、当時の私たちに教えてくれたのです。

コメント