伝説の8ビットCPU三つ巴の戦い――6502、Z80、6809が作り上げたコンピュータ史の深淵

はじめに:8ビットCPUが定義した時代

1980年代、家庭用ゲーム機やホームコンピュータの心臓部として君臨したのが「8ビットCPU」です。ここでいう8ビットとはCPUの内部データ幅を指し、この限られたリソースの中でいかに高度な処理を行うかが当時の技術者たちの戦場でした。中でも、MOS 6502Zilog Z80、そしてMotorola 6809の3機種は、その後のコンピュータ史に決定的な影響を与えた主役たちです。

1. 効率のMOS 6502:安さとシンプルさの革命

MOS 6502は、モトローラの6800から派生したプロセッサであり、その最大の特徴は「驚異的な低価格」と「シンプルで美しい設計」にありました。

代表的マシン: Apple II、コモドール64、そして任天堂のファミリーコンピュータ(派生コアの2A03を採用)などが挙げられます。

設計思想: レジスタの数は非常に少なく制限されていますが、メモリアドレスの0ページ目(0000−00FF)を高速なレジスタのように扱う「ゼロページ・アドレッシング」というユニークな仕組みを持っていました。

性能: クロックあたりの命令実行効率が非常に高く、1MHzの6502は、当時の3MHz前後のZ80と同程度の処理能力を発揮することが可能でした。

2. 多機能のZilog Z80:黄金時代を支えた万能選手

インテルの8080開発メンバーが立ち上げたザイログ社のZ80は、8080との互換性を保ちつつ、命令セットを大幅に拡張したプロセッサです。

代表的マシン: MSX、セガ・マスターシステム、ZX Spectrum、ゲームボーイなど。

設計思想: 豊富なレジスタセットと強力な命令を備えており、特にメモリ間のデータ移動を1命令で行う「LDIR」命令などは、プログラマーにとって非常に利便性の高いものでした。

性能: クロック周波数を上げやすい設計であり、当時のシステムでは3.5MHz〜4MHz程度で動作するのが一般的でした。

3. 究極のMotorola 6809:美しき直交性の極致

「究極の8ビットプロセッサ」と称されるのがMC6809です。

特徴: 命令セットに直交性があり、プログラミングのしやすさと柔軟性が追求されました。8ビットCPUでありながら16ビット演算機能も充実しており、当時のマイコン(日立のMB-S1や富士通のFM-7など)に搭載され、その高性能を誇りました。

テスト結果: 非常に複雑な回路構成を持っていましたが、あるパフォーマンステスト(1万回のループ処理)では、Z80が27秒で完了したのに対し、6809は52秒を要したという結果もあり、必ずしもすべての処理で高速だったわけではありません。

4. パフォーマンス比較:ベンチマークが語る真実

実際の性能比較において、興味深いデータが存在します。例えば、1から100までの加算を行うプログラムの速度判定では、MSX(Z80)がファミコン(6502系)に対して約9%の速度差で勝利しました。しかし、ゲーム制作で重要となるランダムアクセスやパッド入力、コマンド入力といった処理においては、6502を搭載したファミコンがZ80搭載機を14%〜39%ほど上回る速度を見せることもありました。

これは、Z80が豊富な命令セットで「手厚く」処理を行うのに対し、6502は「少ないサイクル数でメモリを叩く」ことに長けていたためです。

5. アーキテクチャの対比:メモリマップドI/Oとスタックポインタ

設計面での大きな違いは、周辺機器との接続方式にあります。**6502は「メモリマップドI/O」**を採用しており、CPUはメモリと周辺機器を区別しません。一方、Z80はメモリとは別にI/O専用のアドレス空間を持っていました。

また、スタックポインタについても、6502が1ページ目(256バイト)に固定されていたのに対し、Z80は16ビットのスタックポインタを持ち、メモリ上のどこにでもスタックを配置できるという柔軟性を持っていました。

結び:制約が創造性を加速させた

これらの8ビットCPUは、現代のプロセッサから見れば極めて非力です。しかし、その厳しい制約こそが、プログラムの極限までの最適化や、バンク切り替え(マッパー)によるメモリ拡張、タイルやスプライトの再利用といった独創的な技術を生み出す原動力となりました。

8ビットCPUの違いは、例えるなら「道具箱」の違いのようなものです。 6502は、わずかな種類の非常に鋭い彫刻刀だけで傑作を彫り上げる職人のようなスタイル。対するZ80は、あらゆる種類のノミや金槌が揃った大きな工具箱を使いこなし、力強く構造物を組み上げる建築家のようなスタイルと言えるでしょう。どちらが優れているかではなく、その道具を使いこなした開発者たちの知恵こそが、現在のデジタル文化の礎となったのです。

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この記事を書いた人

電子機器の試作会社、老舗出版会社、通信系IT企業を経由して、現在は兼業ブロガー。SDGsに貢献しつつ、生活の中で課題をもって購入した商品のレビュー、プチ旅行の紹介、忘れつつある記憶の記録など、おおむね個人の趣味を綴ったブログにしたいと思います。

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