80年代マイコン少年の聖典『I/O』と、熱狂の「ダンプリスト」文化を振り返る

1976年10月、日本初のマイクロコンピュータ専門雑誌として『I/O』(アイオー)が産声を上げました。この雑誌は、工学社を起業した星正明氏によって創刊され、編集人には後にアスキーを創設する西和彦氏も名を連ねていました。創刊当初はわずか40ページほどでしたが、やがてそれは「電話帳」と形容されるほどの厚みを持つ、マイコン少年のバイブルへと成長していきます。

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「打ち込み」が唯一の道だった時代

当時のマイコン少年たちにとって、『I/O』の最大の魅力は、誌面に掲載された膨大なプログラムリストにありました。当時は現代のように安価な市販ソフトが溢れているわけではなく、ゲームを遊ぶためには雑誌に掲載された「ダンプリスト」と呼ばれる0からFまでの16進数の数字を、一文字ずつ手作業でキーボードから入力する必要がありました。

特に、BASIC言語よりも高速に動作する**機械語(マシン語)**で書かれたアクションゲームは人気が高く、打ち込みのミスが一つでもあるとプログラムが動かないという過酷な作業でありながら、多くの若者がこれに没頭しました。入力ミスを防ぐために、後には「チェックサム」という確認機能も導入されましたが、それでも印刷のかすれや自分の入力ミスに泣かされる日々は、当時の読者にとって共通の思い出です。

投稿から生まれたスターたち

『I/O』は読者投稿雑誌としての側面が非常に強く、ここから多くの伝説的なプログラマが誕生しました。その代表格が、後に『ドラゴンクエスト』シリーズを手掛けることになる中村光一氏や、「芸夢狂人」のペンネームで知られる鈴木孝成氏です。

中村氏は高校生時代に投稿した『ドアドア』などで130万円を超える印税を得たとされ、鈴木氏(芸夢狂人)は『マリンエイリアン』や『スペースマウス』といったヒット作を次々と世に送り出しました。鈴木氏は、その卓越した技術力で、機種ごとに異なるペンネーム(ルリタテハ、FALCON.Sなど)を使い分けることもありました。彼らの存在は、当時の読者にとって、自分の技術で「ジャパニーズドリーム」を掴める可能性を示す希望の星でもありました。

『平安京エイリアン』と文化的影響

『I/O』を語る上で欠かせないのが、東京大学の学生グループ「TSG」が開発した『平安京エイリアン』です。このゲームは1980年2月号にプログラムリストが掲載され、穴を掘ってエイリアンを埋めるという独特のルールで大ヒットを記録しました。

また、誌面にはプログラムだけでなく、地方の読者が憧れた「あきはばらMAP」や、きむらしんじ氏によるマスコットキャラクター「DAN」など、コミュニティを形成する要素が豊富に盛り込まれていました。当時の読者は、これらの地図や投稿コーナーを眺めながら、遠く離れた電気街や見知らぬ同志たちに思いを馳せていたのです。

全盛期と時代の変遷

1983年頃、『I/O』は全盛期を迎え、ページ数は600ページを超えました。その半分は広告ページであり、分厚い本誌を持ち歩くこと自体がマイコンユーザーの証でもありました。当時、『I/O』、『月刊アスキー』、『月刊マイコン』、『RAM』は「4大マイコン雑誌」と呼ばれていましたが、この中で現在も刊行され続けているのは『I/O』だけです。

しかし、パソコンが16ビット時代を迎え、Windowsが普及するにつれて、雑誌の役割は大きく変化しました。ソフトウェアはフロッピーディスクなどで供給されるようになり、もはや長大なリストを打ち込む必要はなくなりました。さらにインターネットの登場により、情報の鮮度や無料での提供という面で、印刷メディアとしての雑誌は苦境に立たされることになります。

結びに代えて:コミュニティとしての雑誌

『I/O』の衰退と変遷を分析した論文によれば、雑誌が生き残るための鍵は「コミュニティの存在」にあります。かつての『I/O』が、単なる情報誌を超えて、読者同士が「打ち込み」という苦労を共有し、スター投稿者を熱狂的に支持する意識共同体であったことは間違いありません。

現在は「自作派のためのパソコン情報誌」として形を変えながらも刊行を続けている『I/O』ですが、その根底には、あの80年代の熱い「マイコン魂」が今も流れているのかもしれません。もし書店でその背表紙を見かけたら、かつて16進数の海を泳いでいたあの頃の自分を思い出してみてはいかがでしょうか。

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補足事項: この回答は、提供されたソース資料に基づいて作成されています。記事内で触れた「出版不況の原因」や「雑誌の衰退要因」などの分析は、ソース〜に含まれる大島一夫氏の考察に基づいています。また、芸夢狂人氏が現在は医師であるという情報は、ソースに基づいています。

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この記事を書いた人

電子機器の試作会社、老舗出版会社、通信系IT企業を経由して、現在は兼業ブロガー。SDGsに貢献しつつ、生活の中で課題をもって購入した商品のレビュー、プチ旅行の紹介、忘れつつある記憶の記録など、おおむね個人の趣味を綴ったブログにしたいと思います。

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