昭和の熱狂から令和の町おこしへ:未確認生物「ツチノコ」が日本人に愛され続ける理由とその正体

日本全国に数多の伝説が残る未確認生物(UMA)の中でも、**ツチノコ(槌の子)**ほど日本人の心を捉えて離さない存在は他にいないでしょう。古くは縄文土器の文様や『古事記』の「野槌(のづち)」にその原型が見られるとされ、北は岩手から南は鹿児島まで、全国各地で目撃情報が絶えません,。

ツチノコとは一体何なのか? 伝承によれば、その姿は農具の「槌」に似た寸胴なヘビのようで、普通のヘビとは異なり瞼(まぶた)があるといわれています,。移動方法も独特で、尺取り虫のように進む、丸太のように横に転がる、さらには数メートルもジャンプするといった驚異的な身体能力を持つとされています,。また、チーと鳴く、日本酒を好む、いびきをかくといったユーモラスな特徴も語り継がれてきました,。

社会現象となった「ツチノコブーム」 ツチノコが今日のような国民的スターとなったのは、1970年代のメディアの影響が極めて大きいです。1972年に田辺聖子氏が山本素石氏をモデルにした小説『すべってころんで』を連載し、翌年にドラマ化されたこと、さらに矢口高雄氏の漫画『幻の怪蛇バチヘビ』が大ヒットしたことで、子どもから大人までを巻き込む大ブームが巻き起こりました,,。この時期、西武百貨店が懸賞金をかけたことを皮切りに、ツチノコは「見つければ一攫千金」の夢を乗せた対象へと変質していきました,。

地域おこしの切り札としてのツチノコ 現在、ツチノコは過疎化に悩む地域の**「地域おこし」のシンボルとして重要な役割を担っています。その代表格が、目撃例が非常に多い岐阜県東白川村**です。ここでは1989年から毎年5月に「つちのこフェスタ」を開催しており、人口約2,300人の村に過去最多で4,000人もの参加者が集結したこともあります,,。村には日本唯一の「つちのこ資料館」や「つちのこ神社」も存在し、捕獲賞金は毎年1万円ずつアップし、2023年には131万円に達しています,。

東白川村以外でも、新潟県糸魚川市では最大1億円、岡山県赤磐市(旧吉井町)では2,000万円を超える賞金が設定されるなど、各地でツチノコを資源としたユニークな活動が継続されています,。かつて兵庫県千種町(現・宍粟市)では2億円という破格の懸賞金が掲げられたこともありました,。

正体をめぐるリアリズムとロマン 科学的な視点からは、ツチノコの正体についていくつかの仮説が立てられています。 有力なのはアオジタトカゲやマツカサトカゲの誤認説です。これらは1970年代のブーム期にペットとして輸入された時期と重なり、短い脚が草に隠れるとツチノコそっくりの姿に見えるためです,。また、大きな獲物を飲み込んだ直後のヘビや、妊娠して胴が膨らんだヤマカガシ、あるいは新種のヘビやトカゲである可能性も指摘されています,。

しかし、ツチノコの魅力は単なる生物学的解明にはありません。東白川村の調査では、かつてツチノコ(ツチヘンビ)は「見ると災いが起こる」とされ、畏怖の対象として語ることも憚られていました,。それが現代では、自然と触れ合い、夢を追いかけるための「親しみやすいキャラクター」へと変容しました,。ツチノコを追う人々にとって、それは「いない」と証明することではなく、「もしかしたらいるかもしれない」という余白を山の中に残しておくことに価値があるのかもしれません,。

記録映画監督の今井友樹氏は、ツチノコを信じた時代のほうが心が豊かであった可能性を指摘しています。高度な科学技術で不安を克服しようとする現代社会において、ツチノコは自然と人間の「境界」を繋ぎ止める、大切な精神的遺産といえるでしょう。

ツチノコを探す旅は、単なる未確認生物の捜索ではなく、私たちが忘れかけていた「故郷の豊かさ」や「未知へのときめき」を探す旅そのものなのです。

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この記事を書いた人

電子機器の試作会社、老舗出版会社、通信系IT企業を経由して、現在は兼業ブロガー。SDGsに貢献しつつ、生活の中で課題をもって購入した商品のレビュー、プチ旅行の紹介、忘れつつある記憶の記録など、おおむね個人の趣味を綴ったブログにしたいと思います。

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