レトロPCの至宝、ソニーMSX「HitBit」を語り尽くす —— デザインの革新と現代に繋ぐメンテナンス

目次

1. 「ひとびとの、ヒットビット」ソニーがMSXに込めた想い

1983年、ソニーはMSX規格の誕生とともに、独自のパソコンブランド**「HitBit(ヒットビット)」**を立ち上げました。この名前には、「ヒット」するようにという願いと、コンピューターの単位である「ビット」、そして何より誰にでも簡単に使える「人々(ひとびと)」のためのマシンという意味が込められていました。

イメージキャラクターに当時絶大な人気を誇った松田聖子さんを起用し、「ひとびとの、ヒットビット」というキャッチコピーとともに展開されたテレビCMや雑誌広告は、当時の少年たちの心を強く掴みました。ライバルのパナソフトに対し、ソニーはHiTBiTレーベルで独自のソフトラインナップを強化し、一般の家電ルートでパソコンを普及させることに成功したのです。

2. 初期の名機「HB-55」とデザインの系譜

ソニーのMSXを語る上で欠かせないのが、1983年末に発売されたHB-55です。このモデルは、赤を基調としたエッジの効いたシャープなフォルムが特徴で、カーソルキーが7セグメントディスプレイのようなユニークな形状をしていました。RAMは16KBと控えめでしたが、RF出力とコンポジット端子を備え、家庭のテレビに繋げばすぐに使える手軽さが魅力でした。

その後、1980年代半ばに登場した**HB-101(Mezzo)**は、MSXのデザインにおける一つの到達点と言えます。プラスチックの質感を活かした曲線的な形状と、持ち運びに便利なキャリングハンドルが一体化したデザインは、後にソニーの歴史的なプロダクトとして展覧会でも称賛されることになります。

3. 欧州への展開と多機能モデル「HB-F9P」

ソニーのMSXは日本国内に留まらず、世界中で愛されました。欧州市場向けには、MSX2規格のHB-F9Pなどが投入されました。このモデルには、日本語版の住所録機能などを発展させた**「Memovision」**というソフトウェアスイートが内蔵されており、カレンダー、家計簿、計算機などが3D風のグラフィックスで表現されていました。

また、欧州では各国のキーボード配列に合わせたバリエーション(ドイツ向けのHB-F9D、フランス向けのHB-F9Fなど)が用意され、現地のニーズに応えていました。

4. 現代におけるメンテナンスと「延命」のポイント

発売から40年近くが経過した現在、HitBitを当時の状態で動かし続けるには適切なメンテナンスが不可欠です。

バッテリーの除去: 内部に搭載されている「バレル(樽型)バッテリー」は、経年劣化で液漏れを起こし、基板を腐食させる最大の原因です。見つけ次第、すぐに取り除くことが推奨されます。

電源ユニット(PSU)の近代化: HB-T7などのモデルでは、古い電源ユニットを最新の安定したモジュール(Traco Power 60 TOP 60522など)に交換する改造がファンの間で行われています。これにより、発熱を抑え、安定した動作を実現できます。

コンデンサの交換: MSX2+世代のHB-F1XDJなどは、内部の「HIC-1」基板の表面実装コンデンサが液漏れしやすく、放置すると回路を破壊してしまいます。早急な交換(リキャップ)が「エンドゲーム」MSXとして長く使い続ける鍵となります。

外装のケア: HB-101のような光沢のある筐体は、細かい傷が目立ちやすいものです。自動車用の微粒子コンパウンドやプラスチック用研磨剤(ポリウォッチなど)で丁寧に磨くことで、当時の輝きを取り戻すことが可能です。

5. 結びに代えて

ソニーのHitBitシリーズは、単なる計算機ではなく、私たちの生活に溶け込む「未来の道具」としてデザインされました。内蔵されていた住所録やスケジュール管理機能(Personal Databank)は、現代のスマートフォンの先駆けとも言えるアイデアでした。

もし押し入れに眠っているHitBitがあれば、ぜひ一度電源を入れてみてください。たとえ内蔵ソフトを使わなくても、そのスタイリッシュな佇まいは今なお色褪せない魅力を放っています。

たとえるなら、HitBitは「時間を超えて走り続けるヴィンテージ・スポーツカー」のような存在です。 適切な手入れを施せば、あの頃の輝かしい未来像を再び見せてくれることでしょう。

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この記事を書いた人

電子機器の試作会社、老舗出版会社、通信系IT企業を経由して、現在は兼業ブロガー。SDGsに貢献しつつ、生活の中で課題をもって購入した商品のレビュー、プチ旅行の紹介、忘れつつある記憶の記録など、おおむね個人の趣味を綴ったブログにしたいと思います。

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