2026年1月2日・3日、正月の日本を熱狂させた第102回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)は、青山学院大学(以下、青学大)の圧倒的な強さを見せつける結果となりました。青学大は、10時間37分34秒という従来の記録を大幅に塗り替える大会新記録で総合優勝を果たし、史上初となる「2度目の3連覇」を達成しました。この勝利は、単なる「速い選手が集まった」結果ではなく、原晋監督が長年積み上げてきた独自の育成哲学と、緻密なコンディショニング戦略が結実したものです。
■「新・山の神」の誕生と戦略的な区間配置 今回の優勝を決定づけた最大の要因は、往路5区(山上り)での劇的な逆転劇でした。青学大の主将、黒田朝日選手は、トップの中央大学から3分24秒差の5位でタスキを受け取ると、驚異的な追い上げを見せました。黒田選手は従来の区間記録を1分55秒も更新する1時間07分16秒というタイムを叩き出し、「僕が新・山の神です」と宣言するほどの衝撃を世界に与えました。
原監督は、「5区で区間8位以上を維持すれば優勝できる」という統計的な確信を持っていました。実際に、過去10年間のデータを見ると、青学大が総合優勝を逃した年はすべて5区で区間2桁順位に沈んだ時であり、山上りの重要性を誰よりも熟知していたことがわかります。
■常勝軍団を支える「青学メソッド」 青学大の強さは、原監督が就任当初から掲げた「将来サラリーマンとしても役に立つ人材を育てる」という理念に基づいています。チームの発展は「予選会突破期」「シード権維持期」「連勝期」の三段階を経ており、現在は高度な育成メカニズムが確立されています。
特に注目すべきは、フィジカルトレーニングの刷新です。かつての従来型トレーニングから、動的ストレッチと体幹補強を組み合わせた**「青トレ」へと舵を切ったことで、選手たちは故障しにくい体と効率的な走りを手に入れました。さらに、練習メニューや合宿の消化率を「見える化」**し、データを共有することで、選手の漠然とした不安を解消し、自己管理能力を高めることに成功しています。
■「頑張りすぎない」ことが生んだ区間賞 復路でも青学大の強さは際立っていました。8区では塩出翔太選手が7年ぶりの区間新記録を樹立し、3年連続の区間賞を獲得しました。そして、9区で初出場ながら区間賞に輝いた佐藤有一選手のエピソードは、現代の長距離選手が直面する課題を浮き彫りにしています。
佐藤選手は、1年生の頃に「走り込み」を重視しすぎた結果、オーバートレーニングに陥り、1年以上も不調に苦しんだ経験を持ちます。彼は「練習で限界まで追い込むのをやめ、余裕を残して終わる」というスタイルに変え、月間走行距離をあえて減らすことで、4年目にして最高のパフォーマンスを発揮できるコンディションを手に入れました。
■科学的視点:痩せと貧血のジレンマ 佐藤選手が直面した課題は、ソースに示された「大学男子長距離選手の貧血と体脂肪率との関係」という研究テーマとも深くリンクしています。長距離ランナーは、パフォーマンス向上のために「痩せ」を追求しますが、過度なエネルギー摂取制限は、生理的機能の低下や貧血を引き起こすリスクがあります。
研究によれば、ヘモグロビン(Hb)や貯蔵鉄の指標であるフェリチンは、トレーニング量が増加するピークシーズン(8月など)には、体脂肪率の減少の有無にかかわらず有意に減少する傾向があります。これは、激しい運動による「血液希釈」や「溶血(赤血球の破壊)」、さらにはエネルギー不足(Low EA/RED-S)による造血機能の低下が原因と考えられます。
青学大の強さは、こうした科学的なリスクを理解し、「青トレ」による効率化や、佐藤選手のように「個々の体に合わせた練習量の調整」を行うことで、**「健康な強さ」**を維持している点にあると言えるでしょう。
■結びに代えて 第102回箱根駅伝での青山学院大学の勝利は、記録の上でも、そして育成システムの完成度という点でも、大学駅伝界に新たな基準(スタンダード)を提示しました。原監督が説く「それぞれのステージに応じた戦略」と「データの共有」、そして選手自らがコンディションを見極める「真の自主性」。これらが融合した時、チームは「山の神」さえも計画的に育成できる無敵の集団へと進化するのです。
箱根駅伝は今、単なる根性の競い合いから、科学と戦略が交差する「インテリジェンス・スポーツ」の時代へと完全に移行したと言えるでしょう。
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※このブログに含まれる情報は、ソースとして提供された論文および記事に基づいています。個別のトレーニングや健康管理については、専門家の指導を受けることをお勧めします。

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