闇夜に響くワライカワセミの調べ:70年代BCLブームと僕らの「世界への窓」

今やスマートフォン一つで、世界中の放送をクリアな音質で聴くことができる時代になりました。 しかし、1940年代には高性能な短波受信機の所持が規制され、発覚すればスパイ容疑をかけられるような厳しい時代もありました。 そんな歴史を経て、1970年代から1980年代初頭の日本で、10代の男子学生を中心に爆発的なブームとなったのが「BCL(Broadcast Listening)」です。,

BCLとは、主に短波を利用して行われる海外からのラジオ放送を受信する趣味のことです。 当時の少年たちは、ノイズ混じりの電波の中に遠い異国の声や音楽を探し出し、それを「世界との接点」として楽しみました。

少年たちの憧れ、BCLラジオの競演

このブームの火付け役となったのは、1972年にソニーから発売された「スカイセンサー」シリーズの第1号機、ICF-5500でした。, 無線機を思わせるマットブラックのフォルム、ポップアップするアンテナ、そしてプロ仕様を彷彿とさせるアナログメーターは、当時の少年たちの心を鷲掴みにしました。,

その後、電機メーカー各社は競って高性能な「BCLラジオ」を投入します。ソニーの「スカイセンサー」ICF-5900と、ナショナルの「クーガ」RF-2200は人気を二分する存在となりました。, 「スカイセンサー」が洗練された近未来的なデザインだったのに対し、「クーガ」は360度回転するジャイロアンテナを備え、理系少年の心をくすぐる「サファリ感」を演出していました。 当時のラジオ好きは、まるでプロ野球のファンチームのように、スカイセンサー派かクーガ派かに分かれていたほどです。

ラジオ・オーストラリアと「ベリカード」の魅力

当時のBCLファンにとって、最も親しまれた局の一つが**「ラジオ・オーストラリア」**です。 19時少し前、オルゴールによる「ワルチング・マチルダ」のインターバル・シグナル(局名告知の前に流れる旋律)が聞こえてくると、チューニングは完了です。, そして、ワライカワセミの鳴き声と共に番組がスタートする瞬間は、多くのリスナーの記憶に深く刻まれています。,

BCLの最大の醍醐味は、**「ベリカード(受信確認証)」**の収集にありました。 放送局に受信報告書を送ると、その証明として美しいイラストや写真が描かれたハガキサイズのカードが送られてくるのです。, ラジオ・オーストラリアの場合、カンガルーやオーストラリアの風景が描かれたカードが人気で、それを集めることが少年たちの大きな誇りでした。,

ブームの終焉と、現代に続く「懐古の灯」

熱狂を極めたBCLブームでしたが、1980年代に入ると次第に沈静化していきます。 原因の一つとして、1979年のPC-8001発売に象徴される「パソコンブーム」の到来が挙げられます。 また、外国語の壁や国際短波放送自体の縮小も影響しました。, 象徴的な出来事として、2017年には多くのファンに愛されたラジオ・オーストラリアの短波放送も幕を閉じました。,

しかし、BCLという趣味が完全に消え去ったわけではありません。2010年頃からはSNSを通じて、かつてのブームを楽しんだ世代が活動を再開しています。 インターネットオークションでは、当時のスカイセンサーやクーガが今なお高値で取引され、大人になったかつての少年たちが「憧れの1台」を手に入れています。

デジタル時代だからこそ、ノイズの中から奇跡的に浮かび上がる遠い国の声を追い求めたあの頃の情熱は、今もなお多くの人々の「感性の原点」として輝き続けています。,

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この記事を書いた人

電子機器の試作会社、老舗出版会社、通信系IT企業を経由して、現在は兼業ブロガー。SDGsに貢献しつつ、生活の中で課題をもって購入した商品のレビュー、プチ旅行の紹介、忘れつつある記憶の記録など、おおむね個人の趣味を綴ったブログにしたいと思います。

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